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大阪高等裁判所 平成元年(ネ)1621号 判決 1990年7月20日

控訴人(被告)

安田火災海上保険株式会社

被控訴人(原告)

上坂佳子

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は被控訴人に対し、金一七七六万円及び内金一一七九万円に対する昭和六一年九月一九日から、内金五九七万円に対する昭和六三年八月四日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

三  この判決の被控訴人勝訴部分は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、原判決四枚目裏五行目の「借して欲しい」を「貸してほしい」に改め、当審における主張を次のように付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人)

一  本件事故車は、主として被控訴人が使用する目的で購入されたフアミリーカーであるところ、本件事故は、行楽のため被控訴人が塚本明美を誘つたドライブの途中、被控訴人が不適切な指示をしたために発生したものであることや、被控訴人が塚本明美においてアルコールを摂取しているのを知つて事故車に同乗したことなど考慮すると、公平の原則から被控訴人の損害の五割を好意同乗による減額すべきである。

二  上坂博文と被控訴人は親子の関係にあり、同居もしていたところ、本件のように、第三者の加害行為により家族の一員が負傷し、法解釈によつて他の家族が損害賠償義務を負担するにいたつたときは、その損害賠償義務の範囲は積極的損害に限られ、将来の逸失利益や慰謝料には及ばないと解すべきである。

(被控訴人)

控訴人の右各主張はいずれも争う。仮に、本件が好意同乗にあたるとしても、大幅な減額は相当ではない。また、損害賠償請求が親族間のそれであることを考慮するとしても、大幅な減額が相当であるということはできない。

第三証拠関係

原審及び当審記録中の証拠目録調書記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  当裁判所は、被控訴人の請求を主文掲記の限度で相当として認容すべきであると判断するが、その事実認定及びこれに伴う判断は、次の付加、訂正をするほか、原判決理由説示一ないし三(原判決九枚目表五行目から同二四枚目表三行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一〇枚目裏一行目の「二月中旬頃」を「三月ころ」に改め、同一二枚目表五行目の「(イ)」を削除し、同八行目の「知り合い、」の次に「塚本は、昭和五八年四月六日第一種普通免許を取得していたこと、」を挿入し、同裏二行目の「一寸と」を「ちよつと」に、同三行目の「借して欲しい」を「貸してほしい」にそれぞれ改める。

2  同一三枚目裏六行目冒頭から同一四枚目表八行目末尾までを次のとおり改める。

「(五) なるほど、博文から事故車を借り受けた者が被控訴人であり、かつ、被控訴人は事故車の運行を支配制御してその危険を回避すべき責任があつたと評価することができれば、被控訴人を共同運行供用者と認めることができるかもしれない。

しかしながら、前認定の事実関係のもとにおいては、被控訴人が免許を取得してからならともかく、事故当時、被控訴人は仮免許を取得していたにすぎず、塚本も被控訴人の運転を指導する資格がなかつたのであるから、事故車の運転を委ねられてその借主となつた者は塚本であつたというべきであり、ひいては、事故車の運行を支配制御してその危険を回避すべき責任を負うべき者も塚本であつたと評価することができる。

そして、本件の運行の目的が被控訴人と塚本のドライブであつたことから、仮に被控訴人にある程度の共同運行供用者性を認め得るとしても、その程度が高いとは考えられず、被控訴人が博文に対し、自賠法三条の他人であることを主張して損害賠償を求めることは許されると解するのが相当である。」

3  同一七枚目表六行目の「同年三月二八日」を「昭和四九年三月二八日」に改める。

4  同一八枚目裏一一行目の冒頭に「眼瞼の著明な浮腫並びに」を付加し、同一九枚目裏四行目の「同年六月」を「昭和五八年六月」に改める。

5  同二三枚目表九行目の「右認定事実に基づけば」を「右認定事実のほか、後記既往症の寄与を除き、本件事故に至る経緯など本件の表れた一切の事情を斟酌すると」に改める。

二  控訴人は、当審において、好意同乗による減額や第三者の加害行為を原因とする家族間の損害賠償義務の範囲を云々し、前掲乙第一、二号証、その成立に争いのない甲第三号証及び原審証人塚本明美の証言によれば、原判決添付事故目録記載の交差点の手前において、被控訴人が塚本に「次の信号を右よ」といつた後、同交差点に直進しようとした塚本に対して「この信号やで」といい、塚本が右折しようとしたため本件事故が発生したこと、塚本は、事故当日、被控訴人と午後七時前に友人方で落ち合つたが、そこでビールをコツプ一杯半飲んだことをいずれも認めることができる。しかしながら、これらの事情を含め、本件に表れた諸事情を総合勘案しても、被控訴人の損害賠償請求権の範囲を限るべき事情としては、高々慰謝料額の算定についての好意同乗による減額が考えられるのみであり、これを超えて大幅な減額を相当すべき事実を認めることはできない。そして、好意同乗による減額については慰謝料額の算定において既に斟酌済みである。

なお、第三者の加害行為を原因とする家族間の損害賠償義務の範囲が将来の逸失利益や慰謝料には及ばないとの解釈は、当裁判所の採らないところである。

三  被控訴人は、本件保険金一七七六万円について本訴状送達の日の翌日である昭和六一年九月一九日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるけれども、自賠法一六条一項の保険会社の損害賠償額支払債務は、保険会社が被害者から履行の請求を受けた時に遅滞に陥るところ、被控訴人が本訴状で履行の請求をした金額は一一七九万円にとどまり、残余の五九七万円についての遅延損害金は、被控訴人において請求の拡張をした訴変更の申立書が控訴人に送達された日の翌日である昭和六三年八月四日を起算日とすべきである。したがつて、被控訴人の請求のうち、右五九七万円に対する昭和六一年九月一九日から昭和六三年八月三日までの間民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は失当として棄却するほかはない。

四  以上の次第で、一部右と結論を異にする原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条但書、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 日野原昌 前川鉄郎 加藤誠)

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